7月4日(木)
仕事帰りに買い物をして帰る。
要冷蔵品をしまおうと冷蔵庫を開け閉めして、ふと扉のポケットを見ると蜘蛛くん。
いったいいつ入ったんだ。
いったん閉めて、キッチンペーパーを片手に再び開ける。
しかしもう蜘蛛くんはいなかった。
7月5日(金)
朝食を用意するために冷蔵庫を開ける。
蜘蛛くんがいた。
さては凍えてお亡くなりになっているだろうと思ったら案外元気に動いていた。
庫外に出すと、ぴん、ぴん、と跳んで去って行った。
7月6日(土)
起き出してきてパソコンのスイッチを入れているとキーボードに蜘蛛くん。
キッチンからここまでたどり着いたらしい。
タイピングする時にうっかりプチンとやりたくないので、ふうふう息をかけて机の端に追いやる。
しかし気づけばまた近づいてくる。
パソコンモニタからティッシュケースへ。
ティッシュケースから机へ。
机からキーボードへ。
よく見れば移動した道筋に細い蜘蛛の糸。
おまえ、ぴん、ぴん、ってよく跳ねるけど、そういうところはさすが蜘蛛なんだな。と感心してみる。
跳ねる蜘蛛を調べて「ハエトリグモ」にたどり着く。
そうかおまえ、ハエトリグモくんなんだね。
7月7日(日)
姿が見えないと思ったら窓際の壁を徘徊している。
しばらくして床の上に脱ぎ棄ててあったスカートを拾い上げたらその下でキョトンとしていた。
うっかり踏みつけないよう床の上に散らばせていた衣類を拾い集めてついでに洗濯する。
蜘蛛くんは再びキッチンのほうへ向かっていく。
廊下の真ん中にいるものだから、危ないよと注意する。
蜘蛛に聴覚はあるのだろうか。ましてや知能なんて。
7月8日(月)
今日はルンバくんが出動する日。
まさか蜘蛛くんをすりつぶしてはいないだろうかと気が気でない。
仕事から帰ってきたらルンバくんが鉢植えをひっくり返して植物を蹂躙していた。
片付けて手を洗おうとキッチンの蛇口をひねったら、シンクから慌てて逃げ出すやつがいる。
蜘蛛くん、そこはさすがに危ないよ。
仕方がないので横着せず洗面所で手を洗う。
食後、蜘蛛くんの姿も見えないので食器洗い。
ざぶざぶやって、気づいたら水を張ったボウルのなかで蜘蛛くんが糸くずのようになっていた。
おまえ、いったいいつからそこにいたの?
なんとなく動いているようにも見えたのですくいあげてシンクに出す。
足がぴくぴくと動いているがそれ以上の動きがない。
急いでティッシュを持ってきて吸いつけるようにしたら、案外元気にティッシュにつかまって復活している。
ぴん、ぴん、と跳ねてこっちにきそうなので、慌てて玄関ドアを開けて外へ振り落とした。
初めて見たときからなんだかちょっと縮んだような姿を思い出す。
おまえのごはんなんてちっともいないのに、あんなにぴん、ぴん、動き回るから。
外の世界ではもう少し生きやすいだろうか。
それとももっと厳しいんだろうか。
小さな黒い糸くずみたいな姿を気にせず動く日々が戻ってほっとしたけど、
でもあとほんのちょっとなら、そんな日々が続いてもよかったかなって思うんだ。